国内助成
contribution
寄稿
著者◉ 福元知晶 (離島のあたらしい放課後創造プロジェクトチーム)
- [助成プログラム]
- 2019年度 国内助成プログラム[しらべる助成]
- [助成題目]
- 離島のあたらしい放課後創造プロジェクト ―屋久島を教育の先進地に!
- [代表者]
- 福元知晶(離島のあたらしい放課後創造プロジェクトチーム)
関係性を多角的に捉え、再構築する場づくり
屋久島の魅力を知る機会がない子どもたち
離島のあたらしい放課後創造プロジェクトチームは、NPO法人HUB&LABO Yakushimaのメンバーが中心となり、鹿児島県の屋久島において小学生を対象とした放課後の場づくり(通称:島子屋)の活動を行ってきました。
本プロジェクト立ち上げの背景には、屋久島におけるコミュニティの課題があります。島で生まれ育った子どもたちが、中学や高校で本土の学校に進学することは、島をはじめとした地方の「あるある」かもしれません。町発行の令和2年度統計屋久島の年齢別人口によると、15〜24歳の割合が4.57%と極端に少なく、若者の島離れは解決すべき課題です。進学先や就職先が少ないという実情もありますが、私自身が島で生活をするなかでもとくに気になったのが「屋久島って何もないよね」という言葉です。都会を羨むそんな声を、身近なところでよく聞くことがありました。
実際のところ、屋久島には本当に「何もない」わけではありません。ご存知の通り、世界自然遺産に登録された豊かな自然や、そこで培われてきた文化や営みがあります。しかしながら、島に住む子どもたちがこうした環境を知りながら成長しているかというと、必ずしもそうではないのです。
屋久島は観光業をはじめとする第3次産業に従事する方の割合が最も多く、全国平均に比べ共働き世帯が多い傾向があります。「忙しくて子どもと遊ぶ時間がない」と悩みを抱える保護者の方の声や、せっかく屋久島に住んでいても、放課後はゲームや動画視聴ばかり……という話もめずらしくはありません。
そこで私たちは、近年教育現場で注目を浴びている「非認知能力」に着目し、その科学的根拠の実証から子どもたちの非認知能力を伸ばすためのプログラム開発と実践までを、プロジェクトとして行いました。非認知能力とは、自己肯定感、好奇心、コミュニケーション力など、学力などの知能と対比され、数値で測ることのできない力のことをいい、子どもの将来に良い影響を与えることが明らかにされています。そして非認知能力は、直接的な介入が難しいことから「環境の産物である」といわれているのです。
子どもたちを取り巻く環境を変えるきっかけ
島の豊かな環境をいかして子どもたちの育ちをサポートし、その子にとっての良い将来へ自らの足で歩んでいける力を身につけること。それが離島だからこそできる教育のあり方であり、持続可能なコミュニティをつくることの第一歩なのではないかと考えたからです。
子どもたちの非認知能力を伸ばす試みとして、独自の評価指標を作成したうえで、経験学習と意識強化のサイクルを回すテスト事業を行いました。たとえば、ある保護者の方が「自信がないのではないか」と感じていた子に対して、テスト事業のなかで、自己肯定感や自尊感情が感じられる言葉や行動を何度も見取ることがありました。保護者の方にそのエピソードを伝えると、とても驚いた様子で「うちの子の意外な一面を知ることができた」とうれしいフィードバックをいただきました。
環境というと目に見える空間のことをイメージしがちですが、さまざまな人や物との関係性も、環境のうちの1つです。一面的だった子どもへの理解が、第三者の介入により多面的になることが、子どもへのかかわりを変え、子どもたちを取り巻く環境を変えるきっかけになると考えています。
助成期間終了後の取り組みとしては、夏休み期間中に「島子屋たんきゅうキャンプ」を実施しました。子どもたちの非認知能力をより多く観察できるよう、ものづくりの要素を取り入れ、放課後では時間的に制約のあった自然体験も思いっきりたのしめるようなプログラムにしました。今後は長期休みの宿泊型イベントを継続していくこと、あわせて経常的に事業を実施できるよう空き家を活用した拠点づくりを目指しています。
対話型共創コミュニティを目指す
また私たちNPOは、子どもから大人までの幅広い世代に向けての環境教育事業を展開しており、一般対象のプロジェクトとして「イマジン屋久島」という事業をおこなっています。昨年度、鹿児島県からの委託を受け「持続可能な屋久島づくり構想策定事業」として屋久島町との共催で実施しました。これまでも「屋久島未来ミーティング」という対話の場づくりを行ってきましたが、イマジン屋久島では、対話だけでおわることのない「対話型共創コミュニティ」を目指しています。
対話の先には、屋久島の持続可能な未来を見据えています。その未来に向かって共にアクションを起こせるよう、島民主体の実行委員会を立ち上げ、SDGsスタートアップフォーラムやプレビジョンづくりワークショップ、持続可能な社会について学ぶオンライン講座、アンケート・ヒアリング等を重ねて、島民自らが考える「30年後の屋久島」に向けたビジョンマップをつくりあげました。つまりは対話によって「持続可能な屋久島」という共通認識への解像度を高めながら、個の想いをあらためて問い、人と自然、人と人との関係性を編み直していく取り組みであるともいえます。現在はイマジン屋久島にかかわったそれぞれの方が、個々の活動や協働するプロジェクトにこのビジョンをタグ付けする形でプロジェクトをすすめており、年内には再びフォーラムの開催を予定しています。
しかしながら、屋久島も例外なく新型感染症拡大の影響を受け、関係性という大切な環境が失われつつあります。そんな今だからこそ、目に見えない関係性を捉え直し、再構築する場をつくることに、ますますの必要性を感じています。これからの未来を担う子どもたちに、「持続可能な屋久島」を大人が体現する背中を見せ、その環境を引き継いでいくことができるように。場づくりの力を信じて、今後も粘り強く活動していきたいです。
公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.37掲載
発行日:2021年10月28日